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外国為替アナリスト内田稔のコメント「トランプ2.0に身構える市場とドル円の高値攻防」
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執筆アナリスト
FDAlco
外国為替アナリスト内田 稔
うちだ みのり
12月以降の振り返り
年末から年始にかけ、ドル円は底堅く推移しています(図1)。

昨年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRBは利下げを決定した一方、2025年末の政策金利見通しを昨年9月時点の「3.4%」から「3.9%」へ引き上げました。この結果、長期金利が上昇し、ドルが堅調に推移しています。一方、日銀は利上げを見送った昨年12月、追加利上げ判断のカギに、トランプ次期政権の政策と賃上げの行方を挙げました。1月の会合時点では、どちらも見通しにくいことから、市場では次回利上げは3月に先送りされるとの見方が優勢となっており、円の先安観も高まりました。足元の市場では、トランプ次期政権で見込まれる関税引き上げが世界的なインフレ再燃を招くと警戒され、日本を含む多くの国で長期金利が急上昇しました。これが、総じて「悪い金利上昇」とみなされており、当該通貨安・ドル高圧力となっています。こうした中、12月分の米雇用統計の発表後、ドル円は一時158円88銭まで上昇する場面がみられました。
今後の見通し
2024年、日本は主要国の中で唯一、利上げを行いましたが、円安基調が続きました。これは名目金利(政策金利や長期金利など)からインフレ率を差し引いた実質金利が他通貨より低い上、マイナス圏にとどまっている為と考えられます(図2)。

今年も海外の利下げと日本の利上げが見込まれますが、日銀の利上げペースは緩慢とみられ、インフレにもしつこさが伺えます。円の実質金利はマイナス圏に留まる公算が大きく、円の自律的な反発力は強くないと考えられます。
一方、米国では労働市場の需給緩和が続いており、利下げの継続が見込まれますが、インフレ再燃への警戒からそのペースは減速する見込みです。トランプ次期政権の政策も不透明と言え、次回の利下げが3月まで先送りされる公算が大きいでしょう。以上を踏まえると、ドル円が160円を上抜けする可能性が高い状況です。もっとも、日本では介入警戒感が高まるとみられ、軟調なクロス円もドル円の続伸を阻むと考えられます(図3)。

また、米長期金利の上昇もタームプレミアムの影響を受けた「悪い金利上昇」との側面を帯びています。これまでは金利上昇に対し、ドルは素直に上昇してきましたが、次第に高値警戒感も意識されそうです。ドル円も160円前後での神経質な値動きが見込まれます。そのほかでは、日銀の「1月サプライズ利上げ」にも一応の警戒は必要でしょう。
2025年1月14日、日本時間20時脱稿
※各図出所:Bloombergのデータを基にFDAlco作成
内田稔うちだ みのり
株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員
1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。
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