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外国為替アナリスト内田稔のコメント「トランプ大統領の相互関税の衝撃」
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執筆アナリスト
FDAlco
外国為替アナリスト内田 稔
うちだ みのり
3月以降の振り返り
年初来、軟調に推移したドル円は3月下旬に持ち直し、一時151円台まで反発した。小売売上高などから米経済への悲観的な見方が和らいだ上、財政拡張への期待から上昇していたユーロドルが反落し、ドル高を後押しした。また、市場がリスク選好に傾き、円も全面安となった。一方、4月2日以降、この流れは急変。米国が示した相互関税にて、一律10%の基本税率に加え、国毎の上乗せ幅も示された。これが予想を上回ったことから世界経済の急減速が警戒され、世界的に株式相場が急落。各国で長期金利が低下し、為替市場ではドル安が進んだ。その上、リスク回避の円買いも活発化し、ドル円は一時144円を割り込んだ(図1)。

もっとも、9日、トランプ大統領が関税の一部の発動を90日間、延期すると発表すると米国の株式相場が大きく反発し、ドル円も一時148円台まで値を戻す荒い展開となっている。
今後の見通し
米中間の貿易戦争が激しさを増す一方、各国の対米交渉が進展する可能性もある。当面、市場の混乱が続く見通しだ。こうした中、4日の講演でパウエルFRB議長は輸入インフレへの警戒を念頭に利下げを急がない考えを再確認。株式相場持ち直しの切っ掛けを与えなかった。他方、米上院では債務上限の引き上げやトランプ減税の延長を含む予算決議案が僅差で可決され、本格的な法案作成へと進む。減税規模は未確定だが拡張的な財政運営が見込まれる。米長期金利には期待インフレ率やタームプレミアム(いわゆる悪い金利上昇)を通じた上昇圧力が加わりやすく、ドルの持ち直しを招くとみられる(図2)。

また、相互関税の発表を受け、日銀は追加利上げに対する慎重姿勢を強めるとみられる。これを受け、過去最大規模に達している投機筋の円買いが縮小する過程では円安圧力も高まりやすい。基本的にドル円は145円付近では底堅さを発揮するとみられ、相互関税の一部延期との発表を受け、株式相場が反発する局面では150円台の回復もあり得るだろう。もっとも、米国の決算発表と米国株式相場の動向が重要だ。米S&P500の予想株価収益率(PER)にみる割高感の修正が相応に進展したが、業績見通しの下方修正が相次げば、一段安とともに弱気相場入りする危険性もある。その際、再びスイスフランや円が選好されやすく、ドル円も下値を模索することになりそうだ。日米実質長期金利差との関係に照らせば、昨年8月安値の139円台程度は想定しておく必要もある(図3)。

2025年4月10日、日本時間10時脱稿
※各図出所 Bloombergデータより筆者作成
(図3は長期金利から市場の期待インフレ率であるブレークイーブン・インフレ率を引いた実質長期金利の日米格差。
週次データをもとに2022年、2023年、2024年に分けて表示)
内田稔うちだ みのり
株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員
1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。
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