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外国為替アナリスト内田稔のコメント「ドル安に必要な条件」

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

8月以降の振り返り

8月以降、労働市場の減速を踏まえた利下げ観測により、ドルが冴えない(図1)。

図1:求人件数及び失業率

8月雇用統計も予想を下回り、9月の50bp利下げ観測が浮上する中、ドル指数は2カ月ぶりの安値圏まで下落している。ただ、円も弱い為、ドル円は概ね146~148円台でのレンジに終始した。依然として実質金利(=名目金利-インフレ率)がマイナス圏にとどまる中、9月2日の講演で氷見野日銀副総裁は利上げ継続方針を示しつつ、海外経済の減速や企業収益の下ブレへの警戒も強調。利上げ観測の後退を招いた。ドルと円が冴えない場合、相対的に他通貨が浮上する結果、9月に入り、クロス円が底堅く推移した。中でもスイスフラン円やユーロ円など欧州通貨の堅調ぶりが目立った(図2)。

図2:ドル円、ユーロ円、スイスフラン円

今後の見通し

8月22日、FRBのパウエル議長はジャクソンホールにて、慎重に利下げを検討する姿勢をみせつつ、インフレへの警戒も滲ませた。足もとの労働市場に照らし、9月利下げが確実視されているが25bp利下げなら市場は完全に織り込み済み。ドル安が進むのは利下げ幅が50bpに達したり、同時に公表される政策金利見通し(ドットチャート)が、年末約3.6%、来年末約2.9%との市場予想を超える利下げ幅を示す場合だろう。もっとも、インフレが再燃するリスクにも一定の警戒を要する中で、その可能性が高いとは言えない(図3)。

図3:個人消費支出物価指数(前年比)

利下げを横目にドル安があまり進まない可能性も十分だろう。一方、注意を要するのは、関税を巡る米国の司法判断だ。一審、二審に続き、最高裁も関税を「違憲」とすれば、財政悪化懸念とドル安が再燃する公算が大きい。判決は来年ともされるが、関連するヘッドラインに注目だ。
日銀は慎重に利上げ時期を模索しようが、利上げは展望レポート公表を伴う会合となるはずだ。年内なら10月だが、自民党臨時総裁選後の内閣の顔ぶれ、連立交渉の行方、物価高対策の中身など不確実性が高く、日銀も慎重を期するだろう。利上げ観測が盛り上がりを欠く限り、上値は重いながらもドル円の大幅な下落も見込みにくい。145円割れがあっても、押し目買いに支えられそうだ。ドルと円が冴えなければ、先述の通り、クロス円が底堅く推移する。ただ、フランスでは政局不安と財政悪化懸念が燻っており、ユーロ円の波乱には要注意だろう。

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内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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