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外国為替アナリスト内田稔のコメント「円急落の賞味期限は意外と長い?」
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執筆アナリスト
FDAlco
外国為替アナリスト内田 稔
うちだ みのり
9月以降の振り返り
9月17日、米連邦公開市場委員会(FOMC)は事前の予想通り、利下げを再開した。ただ、同時に示された来年末の政策金利見通しが予想を上回った為、利下げ観測が後退し、総じてドルは持ち直しに転じた。その後、米国では予算審議を巡り、与野党が決裂し、政府機関が閉鎖されるとドルが軟化した。日本でもハト派とされた野口審議委員のタカ派発言を受けて利上げ観測が高まるとドル円も146円台まで反落した。しかし、高市早苗氏が自民党総裁に選出されるとドル円が急騰した。2カ月ぶりに150円台を回復したほか、ユーロ円も史上最高値を更新するなど円が全面安となっている(図1、図2)。
今後の見通し
高市総裁誕生が円安を招く経路は複数に及ぶ。まず、財政拡張がインフレの持続や加速を招く可能性がある。これは、実質金利(=名目金利-インフレ率)の低迷や低下による円安圧力となる。次に、高市氏は財政政策に加え、金融政策の責任も政府にあるとしている。同氏が利上げに批判的なことから、日銀の利上げ観測も後退した。また、株式市場は財政拡張路線と金融緩和継続を好感して大幅に上昇した。これもリスク選好の円売りを連想させる面がある。こうした中、国債増発懸念やインフレ期待の高まりを受け、長期金利が上昇したが、7日の30年国債入札では相応の需要が確認された。ひとまず、「悪い金利上昇」説は杞憂に終わっている。こうした円安や株高に対し、その持続性に懐疑的な声もある。実際、今後の連立協議を含む政権運営や政策の具体策はまだ見えていない。また、ドル円の続伸は、輸入インフレを警戒する日銀の利上げを早め、米政権による円安けん制につながるおそれもある。ただ、一定の財政規律を重視したこれまでと比べ、明らかに政策の方向は変わる。デフレ脱却に向けて政府と日銀は2013年に共同声明を締結しており、金融政策も何らかの影響を受ける可能性がある。この為、総裁交代を以て相場の潮目の変化とみる向きも少なくないだろう。例えば、先物市場では投機筋が円を買い越しており、その解消(即ち、円売り)が活発化すれば、一段と円安圧力が加わりそうだ。米国に目を転じると、月末に米中サミットを控えている。関税交渉期限(11月10日)を前に両国が何らかの合意に達した場合、ドルにも上昇圧力が加わりそうだ。8カ月ぶりに152円台を回復しており、慎重ながらも上値を試す展開が見込まれ、足元の円安がしばらく続く可能性も十分だろう。その際、政府機関閉鎖の行方が気掛かりだが、前例もあることから市場ではあまりドル資産へのネガティブ材料とはなっていない。また、民間のADP雇用報告にて雇用の減少をみただけに、雇用統計(発表日未定)が予想を下回った場合もある程度の耐性がついている可能性がある。一方、仮にドルが冴えなければ、円安と相まってクロス円が堅調に推移しよう。但し、フランスでは着任間もない首相が辞任を表明するなど、予算案成立のめどが立っていない。ユーロ円についてはフランスの政局を睨みながら慎重に上値を試す展開となろう。(8日午前8時脱稿)
内田稔うちだ みのり
株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員
1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。
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