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外国為替アナリスト内田稔のコメント

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

9月以降の振り返り

FRBは9月に0.5%の利下げを決定し、インフレ対応から景気配慮へと舵を切りました。いわゆるドットチャートは2026年までに中立金利とされる2.9%まで利下げが進むことを示しました。しかし、経済指標は必ずしも米国の景気後退を示唆していません。9月の雇用統計でも平均時給の伸びが拡大に転じており、インフレにも一定の警戒を要します。9月30日の講演でパウエル議長は年内の利下げ幅が0.5%にとどまるとの見方を示し、市場の大幅な利下げ観測をけん制したほか、雇用統計後、市場の利下げ観測は一段と後退しており、これがドル高を促しています。

日本では、植田総裁が政策判断まで「時間的余裕ができた」と繰り返した上、10月2日、植田総裁と会談した石破総理も、「利上げする環境にない」と発言。利上げ観測の後退が円安期待を高めています。9月に一時139円台の円高を記録したドル円でしたが、米雇用統計後に149円台まで急騰するなど荒い値動きとなっています(図1)。

図1:年初来のドル円相場

今後の見通し

FF金利先物市場は既に2026年半ばにも中立金利とされる2.9%まで米国の利下げが進むことを織り込み終えており、雇用統計前の段階で既にドル安に一服感が出ていました(図2)。

図2:ドル指数とFF金利先物(右)
(図2)のFF金利先物は2026年7月限

そもそも、他の国や地域も利下げ局面入りし、市場金利に低下圧力が加わっており、米国からみた金利差も縮小から拡大に転じていました(図3)。

図3:ドル指数と米国の対外金利差
(図3)の金利差は米国金利と海外金利の差。海外金利はドル指数の対象6カ国・地域の金利をドル指数と同じ比率で加重平均したもの。但し、ユーロ圏の金利はドイツ金利にて代用。

総じて利下げ観測がドル安をもたらす7月以降の動きに一巡感がみられており、強かった米雇用統計の結果も加わって、当面、ドルが堅調に推移しそうです。日本では金融緩和や財政拡張路線と距離をとってきた石破新総裁の誕生により、当初は円高・株安の反応がみられました。しかし、その後の発言によって、石破新総裁は市場の不安を完全に払しょくしたと言えます。

総選挙の結果に不透明感は残るものの、目先は金融緩和継続期待から円安が進みやすく、ドル円の150円大台回復も視野に入ります。上抜けする際に揉み合った152円を抜ければ、短期的には勢いが加速する可能性も十分です。もっとも、日銀が利上げ時期を模索している状況は不変とみられます。150円台定着なら総選挙後の10月会合での利上げの可能性も高くなります。市場が殆ど織り込んでいないだけに、利上げによる円高ショックにも警戒が必要でしょう。

2024年10月7日、日本時間8時脱稿

※各図出所:Bloombergのデータを基にFDAlco作成

※当資料は、情報提供を目的として、FDAlcoが作成したものです。特定の運用商品等の売買を推奨・勧誘する ものではありません。※当資料にもとづいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。 ※当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績および将来の予想で あり、今後の市場環境等を保証するものではありません。※当資料は当社が信憑性が高いと判断した情報等に 基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。

内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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