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外国為替アナリスト内田稔のコメント「米中暫定合意の影響とドル円の上値めど」
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執筆アナリスト
FDAlco
外国為替アナリスト内田 稔
うちだ みのり
4月以降の振り返り
トランプ政権の相互関税を受けて市場はリスク回避に傾斜し、米国は株式、国債、通貨が下落するトリプル安に見舞われた。経常赤字国の米国にとり、海外勢による米国債投資は必須だ。それでも、高関税が最大の米国債保有国である日本や二番手の中国にまで向けたことから、中国による米国債売却説が急浮上。ドル建資産が敬遠されるとの警戒が高まった。FRBに利下げを求めるトランプ大統領がパウエル議長の解任にまで言及したことも、中銀の独立性への懸念を強め、ドル売りを誘発。製造業の復権を唱えるトランプ政権がドル安を志向するとの思惑もドル安の一因となった。このほか関税による米経済の減速を念頭に利下げの織り込みも進展し、ドル安要因となった。これらを踏まえ、長期金利の上昇を横目にドル安が進む中、ドル円も4月初の150円台から下落し、一時140円を割り込んだ。但し、4月下旬以降、ドルが持ち直しつつある。トランプ大統領が対中関税引き下げの可能性に言及し、パウエル議長解任についても否定。ベッセント財務長官が強いドル政策を支持し、加藤財務大臣も日米財務相会談で為替が議題にならなかったと説明した。5月7日のFOMC後、パウエル議長が利下げを急がない姿勢を改めて強調すると、利下げの織り込みが後退し、ドル買いを促した。日銀が5月1日、不確実性を理由に経済と物価の見通しを下方修正したことも利上げ観測の後退と円安を招いた。さらに、12日に米中両国政府の関税交渉が進展したことを受けて市場はリスク選好に傾斜し、ドル円も148円台を回復している(図1)。

今後の見通し
米中両政府は12日、関税をお互いに115%ポイント引き下げることで暫定合意した。市場ではVIX指数が20を下回るなどリスク回避が後退しており、金利差に照らして割安となっているドル指数の反発が見込まれる(図2)。

その上、円ロングの取り崩し(=円安圧力)も誘発される可能性が高く、ドル円もドル高に追随するであろう。あくまでも暫定合意であって、最終的な合意内容が期待を裏切る可能性は残っており、ドル安要因も消えたわけではない。例えば、トランプ大統領はFRB批判を繰り返しており、ドル安志向を打ち出すとの見方もなお根強い。米経済のハードデータが悪化すれば、利下げ観測が台頭するであろう。また、円安が進むに連れ、日銀の利上げ観測も復活する可能性がある。もっとも、市場にとって最大の懸念材料であった米中間の相互関税に好転の兆しがみえたことで当面、ドル円は戻り高値を試すと見込まれる。日米実質金利差に照らせば、150円台の回復が視野に入るなど、当面底堅く推移しよう。
2025年5月13日、日本時間10時脱稿
※各図出所 Bloombergデータより筆者作成
(ドル指数はEUR、JPY、GBP、CAD、SEK、CHFに対するドルの名目実効為替レート。
図2の金利差は米国の長期金利と海外の長期金利の差。
海外の長期金利はドル指数と同じ6通貨の長期金利を同じウェートで加重平均したもの。
但し、EURの長期金利はドイツの長期金利にて代用)
内田稔うちだ みのり
株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員
1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。
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