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外国為替アナリスト内田稔のコメント「ドル安の持続性と依然冴えない円」

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

5月以降の振り返り

トランプ大統領は6月4日、鉄鋼・アルミニウム製品への関税を25%から50%へ引き上げる大統領令に署名した。これを受け、EUは対米報復関税措置の前倒しを示唆するなど、今後の両者の交渉は予断を許さない。その上、中国に対し、トランプ大統領は暫定合意が守られていないと不満を表明。関税を巡る先行き不透明感により、為替市場ではドルの上値が重かった。一方、日本の超長期債の発行減額観測が浮上すると超長期金利の低下が円安を招いた。また、投機筋の円買いが高水準であるだけに、リスク回避を招く悪材料が目立った割にドル円は142円台では底堅さをみせた。その上、米雇用統計では前月比でみた平均時給の伸びが前月実績や予想を上回った為、利下観測が後退した。結局、上下ともに決め手を欠いたドル円は総じて140円大台前半での取引に終始している(図1)。

図1: 過去1年のドル円

今後の見通し

ドル指数(※)は2020年以降の値幅の61.8%押しまで下落しており、続落が警戒される。その点、ドル指数算出時の比率が約6割と最も高いユーロドルの動向が重要と言え、仮に1.15を上抜けして続伸すれば、為替市場全体のドル安へと波及しよう。その際、ドル円にも下押し圧力が加わるとみられるが年初来ドル円に比べてクロス円は底堅く、足もとではじり高に推移している(図2)。

図2: ドル円とクロス円(平均)

この一因に名目金利からインフレ率を差し引いた日本の実質金利の相対的、絶対的な低さが挙げられる(図3)。この為、円高が進むハードルも高いと言える。また、米中暫定合意や米国際貿易裁判所による関税差し止め判決(後に、高等裁判所が取り消し)などの報道を受け、ドルが急上昇する場面もみられた。現在のドルは金利(差)から想定される水準よりも低位で推移しており、関税交渉を巡る緊張が和らげば反発する可能性も十分。目先は米中間の交渉に注目が集まる。ドル円は現行のレンジで推移するとみられるが、どちらかと言えばレンジを上抜けする可能性が高いのではないか。

図3: ドルおよびドル指数対象6通貨の実質金利

2025年6月11日、日本時間9時脱稿

※各図出所 Bloombergデータより筆者作成
(図3のユーロ圏の実質長期金利は独長期金利からユーロ圏の消費者物価指数を引いたもの)
(※)ドル指数はEUR(57.6)、JPY(13.6)、GBP(11.9)CAD(9.1)、SEK(4.2)、CHF(3.6)に対するドルの名目実効為替レート(カッコの数字は算出時のウェート,%)

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内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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