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外国為替アナリスト内田稔のコメント

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

10月以降の振り返り

ドル円は堅調に推移しました(図1)。米国の9月分の経済指標が総じて予想を上回り、大幅な利下げ観測が後退した為です。トランプ前大統領の再選を意識したトランプトレードも長期金利の上昇を招きました。

図1:ドル円、ユーロ円

同氏の財政拡張策がインフレ再燃(利下げ観測の後退)を連想させたほか、「悪い金利上昇」も影響した様です。事実、米国のタームプレミアムが上昇しました(図2)。

図2:アメリカの長期金利と10年物タームプレミアム

また、植田総裁が繰り返した「(政策判断まで)時間的余裕ができた」との表現が利上げ観測を後退させたとみられます。円高を見込んで円を買い建てた投機筋は梯子を外され、円売りに回りました。10月日銀金融政策決定会合の会見で植田総裁が「時間的余裕」との表現を今後使わない考えを表明。12月会合での利上げに含みを持たせたほか、10月分の米雇用統計は一転して予想を大きく下回りました。これらの要因で、一時はドル円の上昇に歯止めがかかりましたが、米大統領選挙をトランプ氏が制したことで、再びドル高が加速し、154円台まで急伸しています。

今後の見通し

ドル円はしばらく堅調に推移しそうです。上院に加え、下院も共和党が過半数議席を確保する見通しで、トランプ氏の掲げる所得税減税の恒久化や法人税の引き下げを実現する可能性が高くなり、長期金利の上昇を招くと考えられます。また、ユーロ圏でも長期金利が上昇しました(図3)。

図3:主要ユーロ圏各国の長期金利

インフレ率が目標の2%を回復しました。対する日本の政策金利、長期金利はともに低く、インフレ率を差し引いた実質金利が依然としてマイナス圏にとどまります。また、その解消も見通せていません。円安進行により、12月の会合での日銀の利上げの可能性も高まりますが、利上げペースが緩慢とみられれば、円安を抑える効果には疑問が残ります。ドル円の160円台の回復がやや意識されそうです。 FRBは7日、0.25%の利下げを決める見通しです。また、パウエル議長は今後について、「データ次第」と強調しそうです。総じて、織り込み済みと言え、相場への影響は限られそうです。尚、トランプ氏はウクライナ支援に消極的です。地政学リスクの台頭には要注意です。

2024年11月7日、日本時間8時脱稿

※各図出所:Bloombergのデータを基にFDAlco作成

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内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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