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外国為替アナリスト内田稔のコメント「日米の金融政策とドル円相場見通し」

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

11月以降の振り返り

いわゆるトランプラリーによる米国の長期金利とドル円の上昇は、11月中旬以降にピークを迎えました。(図1)。

図1:アメリカの長期金利

具体的な政策の見極めに移行したとみられる上、トランプ次期大統領が財務長官に指名した投資家ベッセント氏の掲げる政策も長期金利の低下を招いた模様です。同氏は、2028年の財政赤字をGDP比で3%に抑える様に提言する模様です。これがトランプ氏の掲げる財政拡張による長期金利の上昇観測を打ち消す形となりました。日本でも12月利上げの可能性が取り沙汰される中、いくらか円が買い戻され、一時149円を割り込む場面もみられています。ユーロ圏ではドイツに加え、フランスでも内閣が総辞職に追い込まれるなど、政治的な不透明感が増し、ユーロ相場の重しとなっています。ユーロ円は年初来安値圏まで下押しされました(図2)

図2:ドル円、ユーロ円

今後の見通し

米FRBは18-19日のFOMCにおいて、0.25%の利下げを決めるとみられています。但し、既に織り込み済みと言え、利下げによるドル安効果は限られそうです。寧ろ、ここまで底堅さを維持する米経済に照らせば、同時に公表される経済および政策金利の見通しが9月時点のものに比べて上方修正される可能性が高いと言えます(図3)。

図3:9月時点のFRBによる見通しと直近の実績
図3のFRB見通しの内、GDP、PCEは第4四半期の前年比、失業率は平均、直近実績はいずれも直近単月の値

この為、インフレへの警戒から利下げが見送られた場合は勿論、利下げがあった場合もFOMC後のドルは底堅さを維持するとみられます。日銀については市場の利上げの織り込みが不十分である為、仮に利上げがあれば、5円程度の円高ショックが見込まれます。ただ、政策金利からインフレ率を差し引いた実質政策金利は依然としてマイナス圏にとどまります。植田総裁が、記者会見で継続的な利上げに前向きなタカ派のトーンを強調しない限り、円高圧力は次第に和らぐと考えられます。この為、年末時点のドル円は150円程度まで持ち直すとみられるほか、仮に日銀が利上げを見送った場合は155円程度まで反発して越年する可能性が高いでしょう。尚、ユーロ圏でもECBが12日の理事会で0.25%の利下げを決める見通しです。利下げは織り込み済みですが、ドイツやフランスの政治的な不透明感が下押ししそうです。しばらくの間、160円台前半を中心に上値は重いと考えられます。

2024年12月10日、日本時間9時脱稿

※各図出所:Bloombergのデータを基にFDAlco作成

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内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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