
公開日:
外国為替アナリスト内田稔のコメント
毎月更新:相場・マーケット情報

執筆アナリスト
FDAlco
外国為替アナリスト内田 稔
うちだ みのり
7月以降の振り返り
ドル円は大幅に下落し、7月以降の値幅は15円を超えました(図1)。

米国では6月CPI(消費者物価指数)が予想を下回り、利下げ観測が高まりました。日本の当局も約5.5兆円の円買い介入を実施し、これにトランプ大統領のドル高けん制発言や河野デジタル相らの利上げ要請発言が被さりました。また、この間、日米の株式相場が下落し、市場がリスク回避的となったことから、投機筋による円の買戻しを誘った模様です。こうした中、日銀は7月31日、長期国債買入れの減額計画を示すと同時に、利上げも決定しました(0-0.1%程度⇒0 . 2 5%程度)。これが強いサプライズとなって、ドル円の150円割れと日本株の続落をもたらしました。米国では7月31日にFOMCが政策金利の据え置きを決定しましたが、パウエル議長は今後、景気に配慮する必要性にも言及しました。この為、8月2日に発表された7月雇用統計が予想を下回ると、9月の利下げ開始が確実視される中で、ドル安圧力も加わりました。
今後の見通し
植田総裁はデータ次第ながら、利上げを進める意向です。円の最大の弱点は、マイナス圏にあった実質政策金利(政策金利からインフレ率を引いたもの)とみられ、円安相場は転機を迎えたと考えられます。また、米国ではインフレの鎮静化と失業率の上昇傾向が認められ、年内の利下げは複数回に及ぶ見通しです。目先については、140円割れも想定する必要があります。一方、投機筋の円売りの持ち高はかなり減少しました(図2)。

日本の実質政策金利もマイナス圏にあり、かつ諸外国より低い点も不変です(図3)。

貿易収支やサービス収支の赤字も定着しており、M&Aなど円売りをもたらす日本企業の対外投資意欲も旺盛です。この為、円の買戻しが一服すれば、円高圧力が和らぎ、145-150円程度まで持ち直す可能性も十分にあります。ドル円の騰勢が和らぎ、年末にかけて軟化していくとみてきた当方の予想に沿う動きですが、今後の下値目途や下落ペースなどを展望する上で、米経済指標に加え、経済シンポジウム「ジャクソンホール会議(8/22-24)」に注目です。パウエル議長が金融政策のヒントを示す可能性があるからです。
2024年8月5日、日本時間15時脱稿
※各図出所:Bloombergのデータを基にFDAlco作成
内田稔うちだ みのり
株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員
1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。
関連記事
毎月更新:内田稔のコメント一覧
- 2025.04.11「トランプ大統領の相互関税の衝撃」
- 2025.03.14「ドル円の続落を阻む複数の材料」
- 2025.02.14「円高の持続性と今月の注目材料」
- 2025.01.17「トランプ2.0に身構える市場とドル円の高値攻防」
- 2024.12.12「日米の金融政策とドル円相場見通し」
- 2024.11.8外国為替アナリスト内田稔のコメント 2024年11月
- 2024.10.10外国為替アナリスト内田稔のコメント 2024年10月
- 2024.9.12外国為替アナリスト内田稔のコメント 2024年9月
- 2024.7.18外国為替アナリスト内田稔のコメント 2024年7月
FDAのコラム・対談
株式会社FDAlco 免許・許認可:金融商品取引業(投資助言・代理業)北陸財務局長(金商)第26号/加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会