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外国為替アナリスト内田稔のコメント「円高の持続性と今月の注目材料」

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

1月以降の振り返り

1月下旬以降、ドル円は軟調に推移し、2月7日に150.93円と2カ月ぶりの安値を記録しました(図1)。

図1:2024年以降のドル円

この間の円高の背景として、以下3つの材料による投機筋の円の買戻しが挙げられます(図2)。

図2:レバレッジファンド先物円ポジション

まず、①リスク回避の円買いです。中国のAI起業、Deep Seek社の台頭により、米ハイテク企業が劣勢に回るとの見方からナスダック株価指数が急落する場面がみられました。トランプ大統領による相次ぐ輸入関税の発動や引き上げも市場心理を冷やしています。次に、②日銀の利上げペースが加速するとの思惑です。2月5日に赤澤経済再生相が足もとの状況をインフレの状態と評価し、6日には田村審議委員も今年度中に1%程度まで利上げを進めるべきとの考えを示しました。そして、③トランプ政権による円安けん制への警戒です。日米首脳会談を控え、こうした懸念が広がりました。

今後の見通し

カナダや中国が米国への報復関税の発動を決め、米側もさらに応戦する構えです。トランプ大統領は鉄鋼やアルミニウムに対する輸入関税も一律25%に引き上げるとしており、緊張は高まる一方です。投機筋の円ショートが解消するまでしばらくリスク回避の円買いが続くとみられ、ドル円の上値は重そうです。ただ、トランプ政権の政策が見通しにくい中、日銀は追加利上げには慎重とならざるを得ません。その上、日米首脳会談において、為替相場は議題に上らなかった模様です。先の円高材料の内、②、③の影響が和らぐ結果、円高の動きも一服するとみられます。また、パウエル議長が2月11日の議会証言にて、利下げを急ぐ必要がないことを再表明しました。実際、1月雇用統計では非農業部門雇用者数が予想を下回ったものの、失業率が改善し、平均時給の伸びが再拡大するなど、インフレ再燃を連想させる面もありました。市場は年内の利下げを約1.4回程度としか見込んでおらず、ドル指数が底堅さを保っていることもドル円の続落(ドル安円高)を阻みそうです。その点、今月を見通す上では、2月12日に発表される米消費者物価指数と同14日の米小売売上高が重要です。いずれも予想の範囲内に収まれば、ドル円は150-155円圏のレンジを形成し、もみ合いとなりそうですが、どちらも予想を下回った場合、ドル円の続落に注意を要します。加えて、円とドルがともに強含む場面では、クロス円の続落にも要注意です(図3)。

図3:ドル円とクロス円

2025年2月12日、日本時間9時脱稿

※各図出所:Bloombergのデータを基にFDAlco作成

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内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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