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外国為替アナリスト内田稔のコメント
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執筆アナリスト
FDAlco
外国為替アナリスト内田 稔
うちだ みのり
8月以降の振り返り
8月5日に141円68銭まで下落したドル円は、内田副総裁の発言(8/7、金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない)を受けた市場心理の好転により反発しました。日米とも大きく下げた株式相場が持ち直す中、ドル円も149円台まで急反発するなど荒い値動きを辿りました。しかし、米国の景気減速や利下げが意識される中、次第にドル円の上値も重くなり、パウエルFRB議長が8月23日の講演で9月の利下げを事実上、宣言すると再びドル安が進みました。その後、強弱入り混じった8月米雇用統計を受けてドル円は141円78銭まで下落しましたが、9月の利下げ幅について、25bpと50bpの間で市場の見方が割れており、下げ渋りました。尚、植田日銀総裁や氷見野副総裁が「金融緩和の度合いを調整していく」と利上げの継続方針を示しましたが、市場の反応は限られました。

今後の見通し
当面のドル円は9/17~18に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)に左右されそうです。利下げ幅が25bpなら145円を上回る反発が見込まれる一方、市場が織り込み切れていない50bp利下げなら140円割れが視野に入ります。予想は困難ですが、以下の要因から前者の可能性の方が高いと言えます。まず、雇用関連の指標を除けば、米国の景況感が50bp利下げを要するほど悪化していません(図2)。

8月の平均時給(前月比、前年比)、7月の個人消費支出物価指数(コアの前年比)の伸びが前月を上回るなど、インフレ警戒を完全に解除できる状況でもありません(図3)。

一部のハイテク銘柄を除き、株式相場も高値圏を保つなど、大幅な利下げが行われた過去の状況とも異なります。さらに、雇用統計後の講演でウォラー理事らから50bp利下げの示唆はありませんでした。FRBはサプライズを嫌う為、50bp利下げの可能性が高ければ、もう少し踏み込んだ発言があったと考えられます。FOMCではパウエル議長の会見や経済・物価の見通し、政策金利の予想分布図(ドットチャート)にも注目です。利下げ幅が25bpの場合でも、FOMC参加者が米経済の先行きに慎重であれば、今後の利下げ幅の拡大や利下げペースの加速が意識され、ドル安が進む可能性があります。
2024年9月9日、日本時間10時脱稿
※各図出所:Bloomberg、ダラス地区連銀、米経済分析局のデータを基にFDAlco作成
※WEIは消費者態度、労働市場、生産関連の計10種類の指標より算出した週次の米国の景況感
内田稔うちだ みのり
株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員
1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。
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