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外国為替アナリスト内田稔のコメント「ドル円の続落を阻む複数の材料」

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執筆アナリスト

FDAlco
外国為替アナリスト
内田 稔
うちだ みのり

2月以降の振り返り

ドル円は5ヶ月ぶり安値となる146円台まで下落した。米国ではインフレが落ち着きをみせる上、2月雇用統計がやや予想を下回り、市場の利下げ観測が高まりつつある。これが米国の長期金利低下とドル安を促した。また、ユーロドルの急騰もドル安を招いた。ドイツではキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)とドイツ社会民主党(SPD)が財政拡張で合意したことを受けて長期金利が急上昇。為替市場で最も出来高が大きい通貨ペアでのドル安が全体に波及。このほか日本の長期金利上昇も日米金利差縮小との思惑からドル円を下押しした(図1)。

図1: 2024年以降のドル円

今後の見通し

トランプ大統領の相次ぐ関税発動が米経済に暗い影を落としている。アトランタ地区連銀公表のGDP事前推計値(GDPナウ)が今四半期のマイナス成長を示唆。VIX指数(恐怖指数)も昨年8月以来の水準まで上昇するなど市場のリスク回避姿勢が高まっている。米国の長期金利上昇、株高、ドル高を招いたトランプラリーが反転している。ドル円の続落も見込まれ、下値目処として昨年7月高値161.95円と昨年9月安値139.58の76.4%押しである145円絡みが視野に入る。一方、以下の理由からドル円の底入れも期待できる。まず、米経済の先行きが過度に悲観視されており、その点が意識されれば株価の持ち直しも見込める(図2)。

図2: トランプラリー以降の米主要3指標

実際、GDPナウも関税を控えて前倒しされた輸入拡大の影響が強く、週次で米経済を捕捉するダラス地区連銀公表のウィークリーエコノミックインデックス(WEI)によれば、米経済は底堅さを保っている(図3)。

図3:WEI(13週移動平均)

また、株安、円高が続けば日銀も利上げを躊躇しよう。G20の後に植田総裁も世界経済の不確実性が非常に大きいと発言した。さらに、円は対ドルで上昇したものの、主要通貨全体の中では中盤に過ぎず、必ずしも円高ではない。ユーロ高が一服しつつあり、ドル安に歯止めがかかるとドル円も底堅さを増すだろう。加えて、トランプ減税や債務上限引き上げを含む拡張的な予算案が上院で承認されると、米国の長期金利の反転が見込まれる。但し、米国の消費者マインドの悪化が実態経済へ伝播するリスクは否めない。当面トランプ大統領の繰り出す様々な政策の行方に注意を要する上、トランプ政権の円安けん制姿勢が意識され、上値も重そうだ。

2025年3月11日、日本時間18時脱稿

※各図出所 Bloomberg(図1、2)、ダラス地区連銀(図3)のデータより筆者作成(WEIは米国の景気動向を週次で把握する為の指標。個人消費、労働市場、生産に関する10種類の日次、週次の経済指標より算出)

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内田稔うちだ みのり

株式会社FDAlco外国為替アナリスト、高千穂大学商学部教授(専門は国際金融論、外国為替)、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、証券アナリストジャーナル編集委員会委員

1993年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京銀行(現、三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。2011年4月から2022年2月までチーフアナリストを務め、2022年4月から現職。金融専門誌J-MONEYの東京外国為替市場調査では2013年から9年連続アナリスト部門個人ランキング第1位。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本金融学会および日本ファイナンス学会会員。テレビ東京ニュースモーニングサテライト、ロイターコラム外国為替フォーラム、プロピッカー(News Picks公式コメンテーター)などメディアでの情報発信も多数。

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