公開日:2023/12/20

退職を見据える際、リスク性資産の削減は賢明な戦略か?【後編】

INTERVIEW

「退職後はリスク性資産の割合を引き下げましょう」という考え方が一般的です。しかし、政府が目指す「資産運用立国」の実現という大きな流れの中で、2024年から導入される新NISA制度や進行するインフレといった背景を考慮すると、退職を理由にリスク性資産を削減することが本当に適切なのか、改めて検討してみる必要があるのではないでしょうか。
リスク性資産の削減のタイミングについて、フィンウェル研究所・代表の野尻哲史さんにお話を伺いました。

インタビューした専門家

合同会社フィンウェル研究所 代表野尻 哲史
のじり さとし

01

リスクをコントロールするために必要なもの

―自分でリスクコントロールをするのはなかなかハードルが高そうですね。

そうですね。
だからこそ、退職世代、資産活用世代にこそアドバイザーが必要だと思っています。
資産形成の場合は、手をかける必要はなくて、ある程度放っておいても問題ない。問題は取り崩しのスキームになります。リスクコントロールってそんなに簡単じゃないです。
前編でも申し上げたように、1つの方法は預金と有価証券、この2つのポートフォリオで考えて、年齢に合わせて有価証券の比率を少しずつ下げていく。その下げていくプロセスの中で取り崩しをどうやって組み込んでいくかということだと思っています。
多くの方は退職のタイミング、もしくは定年のタイミングで退職金やDC(確定拠出年金)の一時金受取りなどで現金の比率が上がりますので、これが自分の今の年齢にとって正しいリスク性資産比率か?有価証券比率か?というところは、アドバイザーとよく議論をしてください。

私の場合の話をしますと、2022年2月にDCの資金を全額一時金で受取りました。元々は全額有価証券でしたから、一瞬にして現金比率が上がるわけです。それを元に戻すという作業が必要だというのは、これまで一生懸命お伝えしてきたことです。その日のうちに全額有価証券を買い戻すべきだったのですが、ウクライナ侵攻でマーケットがすごく荒れたタイミングだったので、とっても怖くてできませんでした。ただ、その時にアドバイザー、または利害関係のない人が理論だけで買戻しを勧めてくれていたら私は買戻しをしていたかもしれません。
もちろん買戻しのタイミングでそれを実行できなかったとしても、それですべてが終わるわけではありません。次にすべきことは、想定よりも下がってしまったリスク性資産比率を少しずつ持ち上げて行く方法を考えることです。
そのために、例えば金融資産から生活費として取り出すお金は、有価証券の売却ではなくて、預金を取り崩して使っていく、ということも可能です。そうすることで全体の有価証券比率は少しずつ上がっていきますよね。
こういうことが、実はアドバイザーの持っている本当の力だと私は思っています。

02

アドバイザーの選び方

―アドバイザーの役割は非常に重要ですね。アドバイザーを選ぶ基準はどのようにお考えですか?

お客さんに合うか合わないかだと思いますね。例えば、20年お付き合いできる方。それはもしかしたら個人じゃなくて、チームかもしれない。
今、私の年齢であと20年くらいポートフォリオ見てもらいたいなって思うときに、20年後もその務めを果たしてもらえる方であってほしいと思います。もちろん能力があることは前提ですが、必ずしも能力だけではないなと思いますね。

―実際にアドバイザーを選ぶときにどんな点に気をつけたらいいと思いますか?

アドバイザーの役割として重要なのはやっぱりコーチングなんですよね。
逆に、コーチング以外のこと、例えばポートフォリオを作るとか、税金を計算するとかっていうのはアドバイザーが外部の方に委託できてしまうんですよ。
ただ、どうやってもそうした外部の方に委託できないところというのはあって、それがアドバイザーがお客様に対して行うコーチングのところなんですね。
具体的に、相場の上げ下げがあると、それにつれてどうしても「早く売りたい」「損をしたら怖い」といった感情が強くなってきます。そんな時に一緒になってちゃんとゴールを見失わないようにしてくれるということなんですね。

今ここで売ることがゴールに到達することですか?ここでリスクを更に取ることがゴールを達成することですか?ここでさらにリスクを落とすことがゴールを達成することですか?というのを繰り返しお客様と一緒になって考え、それを伝える。常に最初に決めたゴールに今の行動がちゃんと向かっているかどうかということを問いただす。そういう風に、お互いに考えながら進んでいくというところが大事だと思います。
これがアドバイザーの1番中心になる部分ではないかと思いますね。
それを理解いただけると、自分に合ったアドバイザーを選ぶ参考になると思います。

―運用は始めればいいというものではないので、お客様がブレそうになった時に当初設定したゴールに沿って進んでいくためにも、アドバイザーの役割というのは非常に大きいですね。

03

ターゲットイヤー型ファンドの活用方法

―ゴールとなる年を決めると自動的に年齢に合わせて資産配分変更してくれるターゲットイヤー型のファンドというものもありますよね。こういったものについてはどうお考えですか?

今は確定拠出年金の口座での運用でよく使われています。退職の時に全額引き出して一時払いをするという形になると、そこに向けてターゲットイヤー型のファンドを使うということになりますから、これはこれでいいと思いますが、その後の運用を考えるとすごくもったいないと思っています。
80歳をターゲットにしてポートフォリオがだんだん変わっていくように作られているんだったら、それはすごく嬉しいなあと思うんですけどね。
60歳とか65歳をターゲットにすると、その前の5年間ぐらいでほぼキャッシュに近い形に向かうというのは、前編でご紹介した退職後も資産を運用するという考えからすると、ちょっともったいないと感じてしまいます。本来は、例えば80歳くらいをターゲットにすべきものだろうなとは思いますね。

―ターゲットとしているところが、ご自身の考えているライフプランに当てはまるかどうかをよく考えて活用を検討する必要がありますね。

その通りです。
うまく自分のライフプランと合致してターゲットイヤー型のファンドを活用できるんだったら、必ずしもアドバイザーは要らないかなって思いますよ。

04

運用している資産をそのまま遺す?

―では、例えば手元に流動性資産もたくさんある場合、お客さまによっては運用している資産はそのままお子さまに遺したいと考えている方もいらっしゃるのではないかと思いますが、そういった場合は、年齢が上がるからといってリスク性金融資産を減らしていく必要はないのでしょうか?

繰り返しになりますが、どこかで有価証券を売却して生活費に充当すると考えるので、徐々にリスク性資産の比率を下げると考えるのです。手元に流動性資産が十分にあれば有価証券を売却しなければならない理由はそれほど強くありませんよね。
ただ、相続に向けて、またはそれまでの間のお客様の健康状態等を考えると、簡単にそれでOKとは言えないんじゃないでしょうか。

―2つの目線で考える必要があるんですね。

そうですね。
有価証券の現金化には、生活費に当てるものと、相続に向けての準備の2つがあると思うんです。そう考えていくと、生活費に充てるという意味では手をつける必要がない場合もあります。
でも「相続はどうするの?」とか、「認知症になった時にどう対応するの?」だったり、「売却のタイミングは?」「どうやってコントロールする?」とか、年齢が上がるにつれて色々な課題が出てくると思っていますから、そういったことをきちんと決めておかないで、リスク性資産の比率を下げなくても問題ないとは申し上げられないなと思います。

―実際にお客様とお話ししていると、運用については全くご家族で共有していないという方も多いので、今後起こりうる様々なリスクについてご自身だけでなくご家族ともお話をして共有していく必要がありそうですね。

本人の意向が通らなくなる時があるということは、すごく大きな要素だと思います。
例えば、認知症になった場合、本人以外は有価証券を動かすことができないとしている金融機関がほとんどなので、しっかりと考えておく必要はあると思いますね。

05

まとめ

  • 有価証券の比率を下げていくプロセスの中に取り崩しをどう組み込むかが大切
  • ゴールの実現に向けてブレずに進んでいくためにアドバイザーを活用する
  • ターゲットイヤー型ファンドの活用はライフプランをふまえて検討する
  • 運用資産を遺す場合は、本人の意向が通らなくなるリスクを十分に考慮する
資産運用は長期目線で考えることが大切です。
自分に合った資産運用について相談したい、相談しながらライフプランをふまえた資産運用を検討したい方は、ぜひFDAlcoまでご相談ください。

野尻哲史(合同会社フィンウェル研究所・代表)

国内外証券会社調査部を経て2006年から外資系運用会社で投資啓発活動に従事。2019年5月に合同会社フィンウェル研究所を設立し代表に。退職後のお金との向き合い方を資産運用だけでなく勤労・移住など多方面から分析する。
日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会等の会員の他、2019年より金融審議会市場ワーキンググループ、2022年9月より同顧客本位タスクフォースの委員、23年10月から同資産運用タスクフォースの委員も務める。
「60代からの資産「使い切り」法」(日本経済新聞出版)、「IFAとは何者か」(金融財政事情研究会)など著書多数。

株式会社FDAlco 免許・許認可:金融商品取引業(投資助言・代理業)北陸財務局長(金商)第26号/加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会